東京地方裁判所 昭和31年(ワ)9870号 判決
破産会社の被告らに対する本件弁済行為が破産法第七十二条第一号または第二号の行為に該当するか否かについて判断するのに、証拠によれば、右各弁済行為は、破産会社が債務超過支払不能の状態においてなされたものということができる。
しかしながら、破産者が債務超過支払不能の状態にあつたからといつて、既存の債務を弁済することが、常に破産法第七十二条第一号にいわゆる破産者が債権者を害することを知つてした行為とはならない。けだし、既存の債務の弁済は、一方積極財産の減少であると同時に、その相当額において消極財産を減少し、債務者の弁済資力は減少するものではないからである。もつとも、債務者が債務超過支払不能の状態にありながら、特定の債権者に対して弁済することは、もちろん他の債権者にとつて不利益ではあるが、しかしこれらの債権者がもし平等分配的な弁済を得ようとするならば、破産手続によるべきであつて、そうでない限り、既存の債務をその本旨に従つて弁済することは、債務者の当然の義務であつて、これを禁ずべき理由はない。従つて例えば、債務者が履行期未到来の特定の債権者に対して弁済し、又は特定の債権者と共謀し、他の債権者を害する目的を以て、その特定の債権者のみに弁済するというような債務者に債権者を害する悪意がある場合は格別、単に既存の債務を弁済する行為を、すべて破産法第七十二条第一号の行為に当るとはいえない。
本件の場合、原告は右各弁済行為について破産会社に債権者を害する悪意があつたことの主張立証に欠けるところがあるから、右弁済行為を破産法第七十二条第一号の行為と認定することはできない。
次に、右各弁済行為が破産会社が支払の停止(昭和二十九年二月十四日)及び破産の申立(同年四月及び九月)があつた後になされた債務消滅に関する行為であることは、前記認定の事実によつて明らかである。しかし、被告らが右各弁済行為の当時破産会社の右支払の停止又は破産の申立があつたことを知つていたものと認めるに足りる証拠はないから、右各弁済行為を破産法第七十二条第二号の行為に当るものとして、原告がこれを否認することはできない。
以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求は失当であるとしてこれを棄した。